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ブラジルの医療の状況

ブラジルで協力して医療支援を行っているユリ・アルメイダ医師より、ブラジルの状況についてレポートをいただきました。

少し長文にはなってしまいますが、ブラジルで生まれ育ってきた若い医師からのメッセージをご一読下さい。

ブラジルの医療の状況  ユリ・アルメイダ

私はここ南マットグロッソ州ギーア・ロペス・ダ・ラグーナ市で、無料診療を担当している勤務医です。無料診療をするための財源は日本でこの活動に協力して下さっているNPO法人Bridgeからの寄付金で賄っています。私は2年前に医学部を卒業し、現在最も身近な医療であるプライマリケアすなわち家庭医学による医療に携わっています。

現在のブラジル公衆衛生の状況から説明します。それは政治、教育およびその他多くの要因が複雑にからみあい、社会問題になっていると言えます。

ブラジルにはプライベートの医療保険があります。しかし、ほとんどの人(約60%以上)はそれに加入できるだけの金銭的余裕がありません。プライベートの保険に入れない人は全員SUS(統一医療制度)の医療制度を利用することになります。実際ブラジル国民のほとんどがこのSUSと呼ばれる医療保険制度で医療を受けています。SUSを利用することで、診察・検査・診断・治療の一連の医療を無料で受けられます。すなわち、癌の無料治療をはじめ、うつ病、特に糖尿病や高血圧において無料で投薬を受けることができるのです。SUSによって基本的な健康が守られ、健康に問題があればいつでも医療を受けることが出来ます。しかし、現実にはSUSによる医療は成り立っていません。

SUSが政府の財源によって維持され、効率よく活用されているとよいのですが、管理している行政機関に問題があります。知事や市長、地方自治体、州などの行政機関が管理機能不全に陥っています。保健課長は、その手腕によって選ばれるのではなく、政治的に選ばれることが一般的になっているため、そのほとんどが人々の本当のニーズを理解していません。知らないだけではなく、公的資金を私的に流用するなどの汚職によって事態はさらに悪化しています。

しかし、なぜこのようなことが起きてしまうのか?このような汚職があることに気づいていないブラジル人もいますが、気付いている人も汚職にまみれた彼らからの恩恵を自分も受けていると少なからず感じています。汚職に気付いていても、管理者として適任者が選ばれていないことを知っていても、多くのブラジル人が半文盲または文盲であり、詳しい情報を得ることができず、たとえ知ったとしても見て見ぬふりをせざるを得ません。解決方法が見つからないまま、政治家(市長)を選挙で選んでしまいます。

さらに、州の地方都市においては多くの政治家が、公衆衛生において立案し行動できるだけの政治的能力を持っていません。買収による投票も日常茶飯事です。多くの場合、市長や市議会議員は投票と引き換えに日常の食料品をばらまくことで、選挙期間中だけとはいえ住民はその恩義を感じ、不正な選挙の温床となっています。

違法とはわかっていながら、私も彼らを責めることはできません。なぜなら、ここブラジルでは多くの人々が極端な社会的貧困状態にあるからです。1900万人の人々が来月どころか来週の食事にも事欠く有様です。パンデミックによってさらに問題は悪化しています。ブラジルの社会的不平等は極端であり、貧富の差は激しく、富の一極集中には目を覆うものがあります。これらの問題に雇用問題が拍車をかけています。全ての問題が負のスパイラルとなり、解決の糸口が全く見えない、袋小路の状態です。

教育を受けるチャンスが少ないことも、腐敗した政治家に多くの人が翻弄される一因となっています。もちろん、現状打破のため積極的に活動する政治家がいて、いくらかの希望が見えては来てはいますが、多くの国民が目覚めることは非常に困難と思われます。状況は少しずつ良くなっていると思いますが、まだまだ時間と努力が必要です。

現実問題として、麻薬、人身売買、売春、犯罪、その他重要な社会問題など課題は山積みです。多くの人々は、社会的困難がため、高等教育を受けられないがため、健康と安全をわがものにしようと、短絡的にお金に身を任せてしまいます。

ギアロペス医学診断センターには、私の家族をはじめこのプロジェクトに取り組んでいる人たちのように誠実に暮らしている人たちがいます。幸いにも私たちは教育を受け、大学に行く機会を与えられたので、大学を卒業できましたし自分たちの夢を追うことができています。

ブラジルにおける一般的な生活環境をおわかりいただけましたでしょうか。健康問題に話を戻すと、政治家の医療に対する認識のなさや適切な医療提供管理の欠如は、人々の健康問題に対する不安を増長しています。

資格のある専門医の不足と公的機関監督不行きによる誤った公衆衛生が引き金となって発症する慢性疾患(高血圧、糖尿病、高コレステロール、脂質異常症)の管理を、私は医師として非常に重要視しています。

ここ田舎では、一般の人々はこれらの問題の解決方法を見つけられないまま、その重要性がわからないままに、急性心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患、体を動かさないことによる慢性的痛み、うつ病、不安などによる痛み、などに悩まされています。これらは全て医療に関する基礎知識の不足のために発生していると言えます。

SUSは総合医療を提供していますが、専門家は総合医療としての診療をよく知らないことがあります。ここブラジルでは、高等教育、看護学、医学部でさえ、まだ多くの改善が必要です。

私が住んでいるこのギアロペス市では、特に問題は深刻です。医師が不足しているため、市役所は、患者を治療するために必要な医学的知識や医療技術能力がわからないままに、専門医を雇うことを余儀なくされています。保健所で働くSUSの医師は目が合っても、おはようなどの挨拶もないと多くの患者さんが嘆いています。治療を成功させるには、医師と患者の良好な関係が不可欠であることが知られていますが、現実は医師と患者との関係はよくありません。人に暖かい専門医が不足するなど、改善すべきことがたくさんあります。

さらに、ここブラジルの国土は非常に大きく、都市と都市が離れているため、救急医療が大幅に時代遅れとなっています。たとえば、患者が心臓発作または脳卒中を患っても、小さな町では専門の血管形成術とICUサービスがないため、患者は救急車に乗り、3時間かけて移動しなくてはなりません。州都で大学に通っている医学生のジュリアナ・モリベはこの地の出身で、州都に住んでいて心臓発作を起こしたとしても初期治療を適切に行うのは難しいのに、州都から離れた田舎の人はさらにリスクは高くなる事をよく理解しています。救急医療を必要とする患者がいても、救急車が到着するまでに長い時間がかかり、待っている間に適切でないかもしれない治療を施すよりは危険性の少ない投薬に頼らざるを得ないのが、田舎の現状です。結核(治療が容易な病気)、心不全、前立腺癌など治療を受けられれば助かった人たちも、充分な治療が間に合わずに亡くなってしまいます。治療することで回復可能な病気であっても、医療管理・医療技術の欠如のために亡くなった方が多くいることは、国民が平等に医療を受けられるというブラジルの憲法にも反しています。

私の診療は、患者ごとに慢性疾患の管理方法の改善を提案し、より質の高い治療を提供することで、入院患者数や死亡患者数を減らすことに努めてきました。私は慢性疼痛管理、老年医学(高齢者とその健康問題に特化した専門分野)、精神医学を専門としています。これらの分野を私はこれからも好んで専門として診療していきたく思っています。

多くの高齢者は、薬の処方が的確にできる専門医の診察を受ける機会に恵まれず、治療を受けることなく日常的に痛みを抱えて生活しています。私は完璧な専門医ではないため、医療において間違いを犯すこともありますが、私はスピリチュアリストであり、私たちが威厳のある世界を構築するには助け合っていく必要があると信じているので、今は患者の苦しみを少しでも軽減できるよう努めています。

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